デス・オーバチュア
第205話「プレシズ・ヘヴン」



「出張医療サービスなんてやってないんだけどな……」
その少女は愚痴りながら、その場にやって来た。
赤い上着とスカート、黒いニーソックス、そして医者のような白衣を着込んだ青い長髪に青眼の少女。
メディア、西方においてメディカルマスター(医療極めし者)と呼ばれる自称女子高生医師だった。
「まったく、メディア総合病院の午後って感じで優雅にお茶していたのに……いきなり『ナースコール』で呼び出さないでよ」
ここで言うナースコールとは、普通の病院で言うところのナースコールとは少し違う。
本来のナースコールは、入院患者が必要なときに看護婦を呼ぶための装置のことだが、メディアの受けたナースコールは……ナース(スカーレット)が医者(メディア)を呼ぶためための装置だった。
はぐれた時や、緊急時にスカーレットがメディアを呼びつけるための装置。
自分の方が呼びつけられるという時点で、なんとなく、主と従的に間違っている気がする装置だと常々メディアは思っていた。
「……アフターサービス……しやがれ……なの……」
わざわざクリアからやってきたメディアに対して、呼びつけたナースにして患者の第一声がそれである。
「……ねえ、知っているかしら、スカーレット? 勝手に改造というか、パーツとか取り替えるとサポートって受けられなくなるものなのよ」
メディアはお返しとばかりに、意地悪くそう言った。
「……いいからさっさと直しやがれなの……」
身動き一つできない状態でありながら、スカーレットの強気な態度は揺るがない。
「うわ、口悪くなったわね……今の持ち主の影響?」
「それは心外だな」
噂をすれば影というわけでもないだろうが、話題にあげた瞬間、ナイトが帰ってきた。
「俺の影響なら上品にこそなれ、下品になるわけないだろう」
ナイトは口調や仕草など全身で『キザ』な印象をメディアに与える。
「あなたの場合上品というより……まあいいわ。それより、エナジースカウターだかなんだか知らないけど、勝手に変なパーツ付け加えないで欲しいわ!」
メディアは、スカーレットを『診察』しながら、魔王の一人であるナイトにきっぱりと文句を言った。
「いいね、素敵だ。俺の正体を知っていながら、その変わらぬ態度……」
それに対して、ナイトは楽しげである。
「尊敬して欲しいんだったら、スカーレットのメンテナンスぐらい自分でやりなさいよ、吸血王」
「フッ、面倒かけて悪いね、機械類はどうも苦手で……」
「……魔界の科学技術は、今の西方の最新科学より遙かに上だって聞くけど、違うの?」
「いやいや、それは何万年……いや、何億かな? とにかくずっと昔の話だよ。魔導王煌(ファン)を最後に、君達の言うところの科学的な技術は発展を完全に止めている。魔族達は、まだ残っている物、使い方の解る物をただ使っているに過ぎないのさ。壊れたらそれまで、直すことも、新たに生産することもできない……」
「ふうん、宝の持ち腐れな話ね。機会があれば、魔界の科学技術をこの目で一度分析解明してみたいわね」
「じゃあ、俺の恋人にでもなるかい? そうすれば魔界で城持ち、魔界の四分の一なら好きに実験も研究もできるけど?」
「謹んで御辞退させていただくわ。あなたの『血袋』になる気はないもの……はい、修理完了と」
メディアはナイトと軽口を聞き合いながら、あっさりとスカーレットの修理を終えてしまった。
「スカウターの方は弄ってないから、同じ原因でまた爆発すると思うわ。その辺はスカウターを外すなり、対策を考えるなり勝手にやって」
「ふむ、自分より強い者は計れないか……スカウターの方も改良してもら……」
「ああ、無理無理、これ魔界産の機械でしょう? こんなブラックボックスというか、未知の科学の塊、学生レベルの科学知識しかないわたしにどうにかなるわけないでしょう? あ、でも……」
何か思い当たることがあったといった表情をする。
「さっき会ったあの人なら話は別かもね……」
「あの人?」
「わたし以上に魔界の科学に興味を持ちそうな最強の変人よ」
メディアはそう言って微笑を浮かべた。



「降神雷(ゴォッドサンダァ〜)!」
「うがああああああああぁぁぁっ!?」
吹き飛び続けていたダルク・ハーケンの上に、異常なまでに強大で荒々しい雷が落ちた。
その巨大さと激しさはランチェスタの『降雷(サンダー)』の十倍ぐらいだろうか。
「ぐはぁ! なんだこの馬鹿みたいな威力の雷は……クソ幼女か!?」
轟雷によって地上に叩き落とされたダルク・ハーケンは、吐血しながらも、謎の敵からのさらなる追撃に備えて素早く立ち上がり戦闘態勢をとった。
「残念、外れぇ〜、きゃはははははははははっ!」
耳障りな笑い声と共に、黒い羽毛を撒き散らして、四枚の黒い天使の翼を生やした『黒兎』が大地に舞い降りる。
「誰だ、てめえはっ!?」
「うふふふふっ、あなたそればっかりね〜」
セレナは、ダルク・ハーケンのウィゼライトとのやり取りを視ていたのか、彼の発言を捉えて嘲笑った。
「ちぃぃっ……」
ダルク・ハーケンは物凄く不快げに舌打ちする。
基本的に他人を気に入るということが滅多にない彼だが、向き合っているだけで、一言言葉をかわしただけで、ここまで気に入らない、不快に感じた相手は久しぶりだった。
「えっとぉ〜、確かこうだったかなぁ〜?」
セレナが右手を天にかざすと、掌の上空に電光が集まり、巨大な電光の槍が即座に形成された。
「ああん!?」
「雷光神槍(ラァイトニングスピアァ〜)!」
巨大な電光の槍がダルク・ハーケンに向かって投擲される。
「ちっ!」
見覚えのある技であり、電光の輝きと激しさからその威力を即座に推測したダルク・ハーケンは、迎撃を不可能と判断し、空高く跳躍して回避することを選んだ。
「なんで、てめえがクソ幼女の技……をっ!?」
「百万雷撃(ミィリオンサンダァ〜ボルトォ〜)!!!」
ギリギリで電光槍を回避したダルク・ハーケンに、電光を纏った百万の拳の弾幕が降り注ぐ。
ダルク・ハーケンは両手で顔を隠し、なんとかガードの体勢をとるが、ガードごと百万の雷拳に呑み込まれて地上に叩きつけられると、電光の大爆発の中に姿を消した。
「あはははははははっ! 強い強いぃ〜、本当に強いわね、電光の覇王の力は〜」
楽しげに笑うと、セレナは拳を握り締めた右手を突き出し、右手首を掴むようにして左手を添える。
「雷魔装もしていない青雷の魔大公(あなた)なんて、全然電光の覇王(ランチェスタ)の敵じゃないわねぇ〜、うふふふふ」
セレナの全身から放出された電光が凄まじい勢いで倍増していき、右拳へと集束されていった。
「うふふふふふっ、実はこれでも私結構怒っているのよ〜? だぁって、私の大切な大切なお友達を傷つけられたんですもの〜」
集束された電光は、今までランチェスタが集めた時以上にその激しさと輝きを高め続けている。
「……いくら、コンプレックスとトラウマの対象である妹のことで心乱れていたからって……あの程度、あなた程度に不意打ちをくらうなんて……絶対に許せないぃっ! 電光神罰砲(ラァァイトニングゥゥパニッシャァァ〜)!!!」
限界を超えて集束を続けていた電光がついに解き放たれ、電光の超爆発が百万雷撃による爆発を全て呑み込んだ。
「……だって、最高のタイミングでアンブレラに不意打ちを極めるのはずぅぅっと前から私の楽しみだったのよ……横取りしないで欲しいわぁ〜、うふふふふっ」
そんな常人には理解不能で身勝手なことを呟きながら、セレナは、ゆっくりと爆発の収まっていく地上を見下ろす。
「……あらぁ〜? そういえば今手加減し忘れたわりに、地上のダメージが少な……いっ!?」
セレナが虚をつかれた声をあげた。
突然、眼前に赤い長尺刀を構えた修道女(シスター)が現れたのだ。
「プレシズ・ヘヴン!」
修道女が、長尺刀を赤い長鞘から抜刀した瞬間、セレナは無数の肉塊に分割され地上へと落ちていった。



「ダルク、生きてる〜?」
地上に降り立った修道女……ディアドラ・デーズレーは己が『パートナー』に声をかける。
「……ああ、御陰様でな……けっ、またてめえに貸しを作っちまったか……」
八つの矛がダルク・ハーケンを取り囲むようにして大地に突き刺さっていた。
「もう、いちいち貸しだなんて、水臭いわね。私とあなたの仲じゃない〜」
大地に突き刺さっていた八つの矛は独りでに抜けると、ディアドラが開いていた分厚い書物の『中』に吸い込まれて消えていく。
全ての矛が完全に吸い込まれ終えると、聖書のような分厚い書物はバタンと独りでに閉じられた。
「へっ、どんな仲だよ?」
「う〜ん、そうね……ラヴラブでエロエロ〜?」
ディアドラは子供のように無邪気な笑顔を浮かべて言う。
「…………」
「うふふっ」
「……けっ」
ダルク・ハーケンは、ディアドラの笑顔が正視できなかったのか、そっぽを向いた。
「まったくよ、こんな訳の解らない武器であの電光をあっさり防ぐは、あの羽兎を簡単に切り刻むは……馬鹿なだけでなく化け物だな、てめえは……」
「あらあら、私はただの人間よ」
ディアドラはわざとらしく心外よといった態度をとる。
「ただの人間ね……良く言うぜ……で、さっきのふざけた技は何だよ?」
「プレシズ・ヘヴンLV1……ただ『一度』に相手を『六回』居合い斬りするだけの技と呼ぶのもおこがましい技よ」
「LV1ね……大方、LV2とかいって威力が上がった技があったりするのかよ?」
「あら、よく分かったわね。LV2は二十八分割、LV3は四百九十六分割、LV4は八千百二十八……」
「待て待て! なんだそりゃ!? 倍でも二乗でもなんでもねえじゃねえか! どういう法則の増え方だ!?」
「まあ、一応数に意味はあるんだけど……ただ単に好きな『数』だけ斬っているだけよ。あ、正確にはその回数だけ斬っているわけだから、相手はもっと細かく分割されることになるわね」
「……化け物が……」
つまり、本気なら一瞬で八千回以上相手を斬れたのに、思いっきり手を抜いてたった六回しか斬らなかった……といわけだ。
「まあ、LV1じゃエンジェルメイドのマルクトちゃんより一回少ないし、最大二百万の剣撃を放つ災禍の騎士サウザンドちゃんからみたら、八千なんて子供のお遊びよね〜」
「そんなこと言って、最大LVだとそれ以上とか言うオチなんじゃねえのか?」
ダルク・ハーケンは、まさか、いくらなんでもそんなとんでもないことはないだろうと、茶化すように言う。
「…………」
「……おい、まさか、当たりかよ……?」
本当だったとしたらデタラメ過ぎだ。
この自称普通の人間の強さは異常である。
「……それは……」
「それは?」
「乙女の秘密〜」
「……ざけんな! 誰が乙女だ! この淫……」
「やだ、えっちぃ〜!」
「がああっ!?」
ディアドラは聖書(分厚い書物)の角をダルク・ハーケンの脳天に叩き込んだ。
「酷いわ、ダルク。淫乱修道女とか、修道女のくせに非処女とか……あんまり虐めないで欲しいわ〜」
「……て、てめえ、どっちが虐めだ……この淫……」
「酷いわ酷いわ〜!」
「があっ!? ぐはあっ!……」
ドカドカッと何度も聖書の角でダルク・ハーケンの脳天を殴打する。
「うふふっ、さてと……恋人同士のスキンシップはこのくらいにして、そろそろ行きましょうか?」
存分にダルク・ハーケンを殴打して満足したのか、ディアドラは聖書を手品のように掻き消した。
「ああっ? 行くってどこにだよ?」
ダルク・ハーケンは脳天をさすりながら、ディアドラに恨みがましい眼差しを向ける。
「世界の果て、現世(うつしよ)と幽界(かくりよ)の境界よ〜」
「ああん? 幽界? あの世のことかよ? ついにくたばる気になったのか?」
「境界よ、あくまで境界。ちょっと久しぶりに『魔女』に会いたくなったのよ」
「魔女だぁ〜?」
「そう、魔女。私よりもっともっとデタラメな存在……それはそうと、あなたいい加減に腕直したら?」
「てめえよりデタラメだとぉ!? ああ? 腕?……やべぇ、忘れてたぜ……」
ダルク・ハーケンは、左肩に突き刺さったままになっていた己の左腕を引き抜いた。
「貼り付けないで、生やし治した方がいいわよ。斬られたというより剔る……暗黒水の接触部を『喰われ』てるもの……そのまま貼り付けたら腕の長さが右と左で違っちゃうわよ? あ、暗黒水の毒性による肉の腐蝕も考えて、念のため薄皮一枚削ってから生やすのがベターよ」
「てめえ、物騒なこと言いながら近寄るんじゃねえよ! なんだそのナイフは!?」
「あら、残念。せっかく優しく削ってあげようと思ったのに……」
ディアドラの右手にはいつの間にか銀製のナイフが握られている。
「冗談じゃねえ! てめえに任せるぐらいなら、自分で腕を肩から切り落としなおすぜ!」
「うふふっ、じゃあ、行きましょうか。腕の復元は歩きながらでもできるでしょう」
ディアドラは、ダルク・ハーケンの返事も待たず歩き出した。



ディアドラとダルク・ハーケンが立ち去った後、大地に転がっていたセレナの肉塊が、無数の黒い布切れへと変じた。
「…………」
錫杖の鳴る音が響く。
「……暴れ(遊び)足りましたか?」
ウルド・ウルズは何もない空間に視線を向けた。
其処には何もない、誰もない。
けれど、瞳を赤くした今のウルド・ウルズには確かに『視えて』いた。
『うふふふふ、えぇ〜、充分楽しめたわ〜。電光の覇王の能力も試せたしね〜』
ハイレグ・レオタード、蝶ネクタイ、カフスボタンがついたリストバンド、網タイツ、ハイヒール……といった姿のセレナ・セレナーデの姿が浮かび上がる。
「翼……いえ、服に自らの『幻』を重ねて、自らは相手の死角に消える、念のため姿まで透過させて……面白い回避術ですね、まるで『忍者』の変わり身の術……」
「ニンジャァ〜? なぁに、それ〜?」
セレナは足下の布切れを拾いながら尋ねた。
「……東の果てに住む超人のことです……」
「へぇ〜」
拾い上げた布切れを名残惜しそうにしばらく見つめた後、息を吹きかけて飛ばす。
「お気に入りのコートだったのにぃ〜」
「……結局、切り札は今回も切りませんでしたね……」
「うふっ? だってあの人、全然やる気がなかったもの……それに、あの人からは『奪え』ないから、割に合わないのよねぇ〜」
「……なるほど、貴方が奪えるのは相手のエナジー(純粋な力)と属性(特殊能力)だけなのですね? あの人形使いのように技術と身体能力だけの『戦闘力』は奪えない……」
「当たり前でしょ〜、技術というのは知識と経験から構築される後天的なものよ。私が奪えるのはあくまで対象の先天的な才能(生まれ持った力)……単純(シンプル)な『力』だけよ〜。うふふふっ、我ながらささやかな能力よね〜」
「…………」
ウルド・ウルズは、セレナの発言に肯定も否定もしなかった。
「……貴方が『最強』なのは、力を奪う能力を持っているからではない。異質なる力(属性)を無限に『統制』でき……るっ!」
ウルド・ウルズは突然言葉を切る。
「お喋りが過ぎると狩るわよ、鴉ぅ〜。別にあなたの能力なんていらないけどねぇ〜」
いつの間にか、赤い刃の大鎌が己の首筋に突きつけらていたからだ。
「それにぃ〜、私は最強じゃないわよ〜。だぁって、お父様、叔父様、クライドお兄様だけには勝てる気がしないもの……ほらぁ、私より強い人が三人『も』いるじゃない? きゃはははははははっ!」
「…………」
三人……自分が絶対に勝てないと思う存在はたった三人『しか』いない……この黒兎はそう言っているのだ。
大鎌は引き戻されると、手品のように消失する。
「じゃあ、私は帰るけど……あなたも一緒に来るぅ〜?」
「いえ、妹達と合流しなければいけませんので……」
「そう。じゃあ、いろいろと情報くれたことにはお礼を言うわ〜。縁があったらまた会いましょう、うふふ、うふふふふふふふふふっ……!」
セレナは全身から暗黒を噴き出させると、その暗黒に包まれるようにして姿を消し去った。







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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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